大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪簡易裁判所 昭和60年(ろ)60号 判決

主文

被告人北川安を罰金一万円に、同北川昭代を罰金五、〇〇〇円にそれぞれ処する。

被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円をそれぞれ一日に換算した期間(端数は一日に換算する)、その被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は共謀のうえ、大阪市長の許可を受けないで、昭和五九年四月二日ころから同月一九日までの間、大阪市南区日本橋二丁目二三の一に設置した浴場(高津温泉)において、大人一人二二〇円、中人一人一一〇円、小人一人五〇円の料金で、斉藤正夫ほか多数の一般公衆を入浴させ、もつて業として公衆浴場を経営したものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

(被告人両名に対し)

判示所為 刑法六〇条、公衆浴場法八条一号、二条一項(罰金刑選択)

労役場留置 刑法一八条

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は「被告人北川昭代名義で「高津温泉」の名称にて、普通公衆浴場の営業許可申請をなしたところ、大阪市長は、設置場所が配置の適正を欠くとして不許可処分とした。その根拠とするところは、公衆浴場法二条二項及び大阪府公衆浴場法施行条例であるが、同法及び同条例は、いづれも憲法二二条一項が保証する職業選択の自由に違反し違憲無効である。よつて、右違法な不許可処分を前提とする本件所為は何等犯罪構成要件に該当せず、罪とならない。」という。

しかしながら、公衆浴場は、多数の国民の日常生活上、環境衛生保持のため必要欠くべからざる公共性を有する施設である。その上、入浴料金は統制され、利用者の地域的範囲も限定されて、企業の弾力性極めて乏しく、その開設には多額の建設費を要するため他業への転業も容易でない等の特殊性がある。よつて、その濫立と偏在を防止することにより、国民の公衆浴場利用の便に資し、また、浴場経営の安定化を図り、ひいては衛生的な公衆浴場を確保するため、その設置場所について距離的制限を施し、これに反するものに、その経営許可を与えないことが出来る旨の規定は、公共の福祉にかなうところであり、たとえそれが職業選択の自由を拘束する面があつてもやむを得ない(最高裁昭和三〇年一月二六日大法廷判決、同昭和四一年六月一六日第一小法廷判決参照)。そうとすると、その違憲無効を前提とする所論は理由がない。

二  また、弁護人は「被告人北川昭代名義の「高津温泉」所在地に、昭和三〇年ごろから同五八年八月ごろまで約三〇年間「高津トルコ温泉」又は「高津サウナセンター」名で、事実上普通公衆浴場(特殊公衆浴場の許可又は無許可)経営がなされていた。しかるに、右営業中に同所から僅か六五メートルしか離れていない場所に「稲荷湯」(現在は毎日湯)が普通公衆浴場の営業許可の申請をなし、これは、大阪府公衆浴場法施行条例二条三号但書の適正配置規制の例外の特殊事情があるものとして、許可された。そうとすれば、被告人北川昭代名義で申請した「高津温泉」も同様特殊事情に該当するものとして、許可されるべきであつた。そして、右「稲荷湯」は、適正配置規制の距離内に、右「高津卜ルコ温泉」等の営業がなされてることを承知の上で普通公衆浴場を開設し、その営業を継続しているので、これは自ら保護法益を放棄したものである。よつて、本件は法の予想する可罰的違法性を欠如したものであるから罪とならない。」ともいう。

しかしながら、右主張を裏付けるに足る証拠もなく、そもそもその主張自体、永年の違法営業事実を前提としたり、公衆浴場法の保護法益は社会的なものであるのに、これを個人的なものとした上での主張であつて、その主張自体失当であるので、判示所為を以て可罰的違法性のないものとは認められず、所論は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例